2025年3月6日
印刷業界で注目の商業用インクジェット印刷とは?オフセット印刷との違いも解説

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印刷におけるニーズの変化と業界の動向
印刷にはさまざまな種類がありますが、商業印刷の代表的な手法として広く採用されてきたのが「オフセット印刷」です。オフセット印刷は、大量印刷に適した高品質な仕上がりが特長であり、チラシやパンフレットなどの商業印刷の多くがこの手法で行われてきました。
しかし、近年のデジタル化やペーパーレス化によって、印刷業界のニーズは大きく変化し、従来の大量生産型のビジネスモデルから、個々のニーズに応じた付加価値の高いビジネスモデルへと移行が進みつつあります。
また、オフセット印刷は「版」を作成・管理するためのコストがかかるほか、オペレーターの確保や育成に時間を要するという課題があります。
こうした市場の変化や課題を背景に、版を必要とせず比較的操作しやすい「デジタル印刷」への移行が加速しており、その中でも特に注目を集めているのが「インクジェット印刷」です。
「インクジェット」と聞くと、家庭用プリンターのイメージが強いかもしれませんが、近年では従来の課題を克服した商業用インクジェット印刷機が登場し、オフセット印刷に代わる印刷手法として広く活用されるようになっています。
では、「オフセット印刷」と「インクジェット印刷」には、どのような違いがあるのでしょうか?
今回は、オフセット印刷とインクジェット印刷の特徴やそれぞれのメリット・デメリット、さらには商業印刷におけるインクジェット印刷機の進化についてご紹介していきます。

オフセット印刷とは?
オフセット印刷とは、「版」を用いて印刷を行う手法です。
まず、版にインクを付け、それをブランケットと呼ばれるローラーに転写(オフ)した後、ブランケットを用紙に当てる(セット)ことで印刷を行います。
オフセット印刷の版には、インクを付ける部分は水を弾くように、インクを付けない部分は水を乗せやすいように加工が施されており、版に水が乗せられると、水を乗せやすい加工をした部分にだけ水が付きます。水と油の反発性を利用して、版に油性インクを付けたときに濡れていない部分にだけインクが付くという仕組みです。

メリット①大量部数の場合はコストを抑えられる
オフセット印刷は、一度版を作れば同じものを大量に印刷することが可能です。
版を作る費用はかかりますが、部数が多いほど1枚あたりのコストを抑えることができます。
メリット②高品質な仕上がり
オフセット印刷では、印刷工程で紙にしっかりとインクが定着するため、にじみが少なく細部まで鮮明に印刷できます。
また、通常はC(シアン)・M(マゼンタ)・Y(イエロー)・K(ブラック)という4色をかけあわせて印刷しますが、オフセット印刷の場合はこの4色に加え、特色と呼ばれるインクを使用することができます。特色を使用することで、色の表現の幅が広がり、より再現性の高い印刷が可能になります。
デメリット①少部数の場合はコストがかかる
版の作成にはコストがかかるため、少部数の印刷では1枚あたりのコストが割高になります。また、大量部数であっても、それぞれ内容を変えて印刷する場合には、その分だけ新しく判を作成する必要があり、その分コストがかかってしまいます。
少部数や多品種の場合には、オフセット印刷は不向きと言えるでしょう。
デメリット②納期が長くなりやすい
先述のとおり、オフセット印刷では版を作るための時間がかかります。
また、印刷後にインクを乾燥させる時間も必要なため、短納期での対応が難しい場合があります。
インクジェット印刷とは?
インクジェット印刷は、細かい粒子状のインクを直接紙に吹き付ける印刷方式です。オフセットのように版を作る必要がなく、家庭用プリンターでも一般的に使われています。

メリット①オフセット印刷に比べて短納期
オフセット印刷のように版を作る必要がないため、製版の工程がカットされ、その分短納期で仕上げることができます。
メリット②高発色で鮮やか
インクジェット印刷は発色性が高く、鮮やかな仕上がりが特徴です。
多くのインクジェット印刷では、紙の表面に染み込むインクが用いられているため、印刷面が滑らかな仕上がりになり、写真の印刷にも適しています。
デメリット①にじみやすく、用紙の選択肢が限られる
インクを直接紙に吹き付ける印刷方法のため、用紙によってはにじみが生じやすく、細かい文字などがぼやけてしまうことがあります。
また、インクが紙に染み込む性質上、紙がよれやすく、使用できる用紙が限られてしまう場合があります。
デメリット②印刷速度が遅い
紙の表面に染み込んだインクを乾燥させる時間が必要なため、他のデジタル印刷と比べて印刷速度が遅くなることがあります。
また、乾燥前後で色の見え方が変わることがあり、色が安定するまでに時間がかかることもあります。
商業印刷におけるインクジェット印刷機の進化
ここまでご紹介したメリットとデメリットから、従来、インクジェット印刷は家庭用の用途が中心であり、商業印刷ではオフセット印刷が主流でした。
しかし近年、前述の課題を克服した商業用インクジェット機の開発が進み、商業印刷においてもインクジェット印刷機を導入する印刷会社が増えてきています。
にじみにくいインクの採用や印刷スピードの向上、乾燥装置の進歩などによって、従来の課題であったにじみや用紙の制約、印刷スピードなどの問題も解消されつつあり、オフセット印刷に匹敵する高品質かつスピーディーな印刷が可能になっています。

インクジェット印刷は、オフセット印刷の品質とデジタル印刷の操作性を兼ね備えた、いわば「いいとこ取り」の印刷方式と言えます。小ロット・多品種の需要が高まる中、今後さらに商業印刷の主流として普及していくと考えられます。
実際、市場規模の拡大も進んでおり、「インクジェット印刷市場の規模、シェア、2032年までの予測」によると、世界のインクジェット印刷市場は、2023年に1,012.3億米ドル、2024年には1,097.3億米ドルに達しています。さらに、2032年までに2,094.3億米ドルへと成長し、2024年~2032年の年平均成長率は8.4%になると予測されており、今後もインクジェット印刷市場はさらなる拡大が期待されます。
まとめ
今回は、オフセット印刷とインクジェット印刷の違い、そして最新の商業用インクジェットについてご紹介しました。
近年の技術革新により、商業用インクジェットは従来の課題を克服し、オフセット印刷に匹敵する高品質な印刷が可能になっています。
印刷業界の環境やニーズの変化にともない、今後ますますインクジェット印刷へのシフトが進んでいくことが考えられます。ぜひ活用してみてください。
