2015年8月31日
パナソニックなどがWEB社内報をやめて紙社内報を復活させた理由
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紙社内報とWEB社内報の流れ
皆さんは社内報をご存知でしょうか。また、社内報の必要性をご存知でしょうか。
社内報とは、社内広報の略、または社内広報のツールである社内冊子、社内新聞、社内会員サイト、社内SNS、イントラネットなどの媒体を指します。
社内報は、会社から従業員に向けて発信する社内情報であり、会社の方針、社内活動、企業文化、考え方の共有、社員間コミュニケーションの促進などの役割を担っています。
現在でも、紙媒体の社内報の発行は、医療・薬学などの専門業界、または大企業が中心に行っていますが、一昔前までは社内報を発行する一般中小企業も多かったように思います。
今社内報をあまり聞かなくなってしまった原因は、単純に日本の経済停滞によって、まず最初に社内報がコストカットされてしまったためです。
その後、ITとパソコンインフラ環境の発展から、社内報は印刷物から社内サイト、イントラネットなどに形を変えはしたものの、中小企業においてはそこまで大きく扱われることはありませんでした。
ところが最近、この流れが変わりつつあるように思います。
WEB社内報から紙社内報が復活した事例
2014年末にこのようなニュースがありました。
パナソニックは今月、紙媒体の社内報を2年ぶりに復活する。経費削減の一環で2012年に廃止し、イントラネットでの配信に切り替えていた。カラー写真をふんだんに使い読みやすくした社内報で成長戦略などを解説し、社内の求心力向上を目指す。
パナソニックは、以下のように2013年に紙社内報を休刊して、WEBサイトに一本化していました。その当時も私たちの業界的には、かなり大きなニュースでした。
パナソニックは、1927年から紙社内報「pana」を発行していたため、85年間社内報を発刊し続け、たった2年だけWEB社内報に以降して、すぐにまた紙の社内報を2年振りに復活させた、という流れになります。
また別のお話として、最近何かと話題のシャープですが、こちらもパナソニック同様、1958年から刊行されている紙社内報「窓」を2012年に休刊しましたが、2014年にすぐ復活させています。
どちらも歴史があり、モノづくりでは日本のトップを走ってきた企業です。
両者はこれまで培ってきた社内報のノウハウと歴史を捨ててまで、WEB社内報に移り、たった2年でやめて紙の社内報を復活させています。
つまり、社内報は必要だけどWEB社内報ではメリットが少ないと判断したのでしょう。
なぜ、このように大手企業は、紙社内報を復活させているのでしょうか。もう一度社内報の重要性を考えてみたいと思います。
社内報の意義
以前にお伝えした通り、社内報がなぜ必要なのかというと、以下の5つの意味があるためです。
社内報の意味1.会社の経営方針や現状を伝える
社内報の意味2.会社の歴史を知り企業文化を担ってもらう
社内報の意味3.社員間のコミュニケーション促進
社内報の意味4.グローバル展開の中で内部のつながりを作る
社内報の意味5.企業コンプライアンスの植え付け
特に、人が多い大企業、拠点が多い企業ほど、組織運営を円滑に行うために何らかの情報発信手段が必要になります。
社内報自体はその企業風土や時代にあってさえいれば、紙であろうがWEBであろうが、その他であろうが、何でも良いと思います。
ただ、例に挙げたパナソニックやシャープは、WEB社内報に移行したにもかかわらず紙社内報に戻ってきています。
紙社内報を廃刊した理由
なぜ、パナソニックやシャープは長年続けてきた社内報を一度WEBに切り替えたのでしょうか。一部ニュースに取り上げられたものと私の予想で考えてみます。
理由1.コストがかかるため
紙社内報を廃刊した当時は、パナソニック、シャープ共に業績悪化で苦しんでいました。そのため、お金が掛かり過ぎる紙社内報よりは、媒体費用が少ないWEBを選択しました。
ちなみにパナソニックの場合、社内報にかかっているコストは以下のように予想できます。
発行部数:11万部(うち英語版約4000部)
判型:B5変形
ページ数:36ページ
英語版もあるので、印刷だけで300万~600万円ほど(紙質、色数による)。36ページ分の記事作成が必要なので、編集会議、資料集め、執筆、社内インタビュー、ページ校正などで5人×3か月で600万~800万円ほど。英語版は半分は別物、さらに翻訳も必要なので、300万~500万円ほどと予想。
恐らくかかわっている人数はもっと多いでしょう。年4回発行なので、どう少なく見積もっても5,000万円~/年はかかっていたのではないでしょうか。
理由2.CSRを含めたエコ活動のため
紙を減らす=エコというのは間違った認識なのですが、世間一般的に定着してしまっているため仕方がありません。
紙を減らしてエコに取り組みます!と宣言し、取り組み始めた時点でCSRとしての意義は全うできます。
理由3.紙から電子化の流れがあったため
エコ云々は関係なく、閲覧する人が紙ではなく電子媒体を主に見るようになってしまったら、そもそも紙社内報を発行してもその効果が薄れてしまいます。
2010年以降は、丁度その流れが大きく言われていた時期でした。
理由4.グローバル化が進んでいたため
時代の潮流もありましたが、それとともに当時は日本の円高が最高に進んでいた時期でもありました。
そのため、日本におけるグローバル企業は、本当の意味での国籍を持たないグローバル化が進められていました。これは、海外工場がメインになり、日本人、外国人の区別なく登用が進められたことを意味します。
そのため、タイムリーな情報発信を行えるWEB社内報の方がメリットがあると考えられた可能性があります。
理由5.双方向コミュニケーションがとれるため
WEB社内報を使うことでコメントを募ることもできますし、GOOD/BADなどのアクションをさせることもできます。
これまではただの情報発信のみだったものが、何らかの反応が期待でき、さらに良い取り組みに反映させることができます。
紙社内報が復活した理由
紙社内報をやめ、WEB社内報を進めていくことは、コストカットとともに、変化する新しい環境に合わせた社内ツールが必要になった結果だったと言えます。
それにもかかわらず、パナソニック、シャープどちらもわずか2年でWEB社内報をやめてしまっています。これにはどのような理由があったと考えられるでしょうか。
理由1.社内業績が安定してきたため
2010年前後よりは日本の経済自体が上向きになっています。特にグローバルに商品を展開している企業にとっては、円安はかなりの追い風になったはずです。
元々、歴史のある社内報をやめてしまうことには抵抗はあったのでしょう。そのため業績回復の兆しが見えた段階で復活、ということです。
シャープは現段階では微妙ではありますが、日本自体の景気回復に期待と言ったところでしょうか。
理由2.思ったよりもWEB社内報が見られなかったため
これは年代によるかもしれませんが、紙を見る行為よりもWEBを見る行為の方が、他の情報に浮気をしやすいように感じます。
紙媒体はページをめくっていくため読む順番がありますが、WEBは自分が欲しい情報を摘んでいくイメージです。
そのためWEB社内報では、いくらお題目がついていても興味関心がある情報しか読まれず、一番重要な理念や経営方針が伝達されないというデメリットがあります。
理由3.反響が可視化されてしまうため
紙社内報は、良い意味でどれ位読まれているかがわかりません。
そこにどれほどの影響力があるかはわからなくても、企業として経営理念や今後の経営方針を発信し続けているという外部への体裁と継続性にも意味があるのです。
しかし、WEB社内報であれば反響は全て可視化されてしまいます。本来は情報を発信し続けることに意味があるにもかかわらず、思ったほどの反響がなかった場合、廃止する明確な理由になってしまいます。
その他にも、現在の株主(多くは高齢層だと思われる)に対するアピール、モノを作っているという自負、社内政治ということが考えられます。
WEB社内報をやめて紙社内報を復活させた理由まとめ
私の個人的な意見としては、現在の企業風土においては、企業の統率がとれて、社内報を作っている担当者も満足させ、さらには株主への配慮も含めて考えると、紙社内報の方が適していると考えます。
もちろん、これが20年後、30年後に同じ企業風土だということはあり得ません。
たとえば電子書籍が出始めのころは、年齢に関係なく圧倒的に紙の書籍の方が良いという意見を聞きましたし、電子書籍では紙の質感や読んでいる意識そのものを感じられないという意見を聞きました。
ところが、電子書籍登場から5年ほど経って、若い世代では電子書籍が当たり前になりつつあります。それはそうです、読書を始めたのが電子書籍からであれば紙の質感はそもそも知りませんし、読んでいる感覚も単なる慣れでしかありません。
5年、10年で全てが劇的に変わるとは思えませんが、徐々に紙社内報とWEB社内報の転換期に入りつつあることは間違いありません。
もし大手企業であれば、その人員構成やステークホルダーが高齢層であるため、まだ紙社内報中心の方が効果は高いでしょう。
逆にステークホルダーが若年層になってきている若い企業は、WEB社内報と紙社内報の利点が半々くらいなので、厄介なのかもしれません。
どちらを使うにせよ、社内報の重要性自体は5年後も10年後も変わらないでしょう。
会社の理念や方向性を示し続け、歴史を作っていくためには、紙にしろWEBにしろ、なるべく早い内に社内報に取り組むことをおすすめします。