2020年8月17日

話題の「抗菌印刷」とは?抗ウイルスとの違いと効果について解説

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

元来日本人はきれい好きと言われていますが、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、公衆衛生への意識はより強固なものへと変わりつつあります。

そして「抗菌」という言葉も、街中で多く見られるようになりました。

ウイルスと細菌とは似ているようで全く違うものですが、このご時世における衛生観念の高まりもあり、抗菌に対しても大きな関心が寄せられています。皆さんご存知のとおり、ウイルスだけでなく、細菌も多くの感染症の原因となりうるものです。

抗菌加工を謳う技術や製品は数多くありますが、そのうちの一つが「抗菌印刷」です。 今回は、そんな抗菌印刷にフォーカスし、細菌とウイルスとの違いや抗菌の効果について解説してみたいと思います。

細菌とウイルスの違いとは

感染症を引き起こす病原体には、ウイルスと細菌、真菌(カビ)があり、いずれも微生物ではありますが、まったく違うものです。

抗菌の解説の前に、その違いを少し説明しておきます。※真菌(カビ)については省略します。

細菌について

細菌は、細胞の中でも、細胞核を持たない原核生物です。

細胞核のある「真核生物」には、動物や植物、カビや酵母などが含まれます。

生物は「細胞」からできていますが、一般的に大きく2種類に分類されます。「細胞核」のある「真核生物」と、「細胞核」を持たない「原核生物」です(例外もあります1 )。いずれも遺伝情報を持った核酸を含みますが、真核生物では核膜の中にあり、原核生物では細胞内にそのまま存在します。動物・植物だけでなく、微生物のうちカビ・酵母や寄生虫なども真核生物です。人や動植物のように数多くの細胞からなる生物もあれば、多くの酵母のように細胞が一つ一つ独立して生きている生物もあります。

農林水産省ホームページより

細菌の特徴を以下のようにまとめてみました。

大きさ 10μm(マイクロメートル)~100nm。後述しますが、
ウイルスの大きさと比べると10~100倍の大きさです。
(光学顕微鏡でないと見えない大きさです。)
※1μm=0.0001 mm
増殖の方法 細胞分裂で増え、人の細胞の中に侵入し増殖します。
病原体 ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、コレラ菌、赤痢菌、
炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌など
感染症感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌(O157)感染症、結核、破傷風、
敗血症、外耳炎、中耳炎など

以上。続いてはウイルスについて説明します。

ウイルスについて

ウイルスは細胞を持たず、構造としては、粒子の中心にある核酸(DNAまたはRNAどちらか)の周囲をカプシッドというタンパク質の殻が包んでる状態です。ウイルスによっては、エンベロープという脂質膜があります。自己増殖ができないため、無生物と言われることもあります。

先述の細菌と同様、ウイルスの特徴を以下のようにまとめてみました。

大きさ ウイルスの大きさは10nm(ナノメートル)~100nm。
細菌の1/10~1/100の大きさです。
(電子顕微鏡でないと見えない大きさです。)
※1m=0.000001 mm
増殖の方法 単独では増殖できず、人の細胞の中に侵入し増殖。
病原体 ノロウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、
肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、HIVなど。
感染症 感染性胃腸炎、インフルエンザ、肝炎(A型、B型、C型など)、
帯状疱疹、エイズなど

このように細菌とウイルスでは、構造や大きさ、病原体やかかる病気の種類もまったく異なります。

そのためウイルスによる病気に、病原性の強い細菌に効く抗菌薬を使っても全く効きません。

しかし、細菌を病原体とする病気も数多くあり、自身の健康を守るためにも抗菌加工は有効な対策の一つといえます。

抗菌とは

前項を踏まえた上で、抗菌の定義について説明します。

経済産業省発表の抗菌加工製品ガイドラインによると、「製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」とあります。つまり菌を増やさないようにすることです。

ちなみに、類似の表現として以下のようなものがあります。
殺菌:細菌を殺すこと(どの菌をどれくらい殺すかの明確な定義はない)
   ※薬機法により、日常品には使用できません。
滅菌:細菌を死滅させること
除菌:細菌を取り除いて減らすこと。抗菌と同様に細菌を殺しません。

抗ウイルスとは

先述のとおり、ウイルスは細胞を持たず、無生物とも言われています。
そのため、ウイルスには死ぬという概念がありません。

ウイルスの効力を無くすには、ウイルスの外部組織を破壊し、組織を分解させ、その機能を失わせる必要があります。このことをウイルスの不活性化と言います。

なかでも、アルコールや界面活性剤は、エンベロープという脂質膜を持つウイルスの不活性化に有効であるとされています。脂質膜を壊すことで、ウイルスを破壊、無毒化することができます。

エンベロープウイルスとして分類されているのは、今話題の新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどです。

もちろんエンベロープを持たないウイルスもあり、アルコールが不活性化に有効ではない場合もあります。代表的なものでいえば、ノロウイルスにはアルコールが効きません。(一般的には次亜塩素酸ナトリウム系の消毒剤が有効とされています。)

すなわち、抗ウイルスの定義とは、ウイルスの組織を破壊して無毒化し、不活性化させることです。

抗菌加工マークとその基準

※SIAA(抗菌製品技術協議会)Webサイト

話を抗菌に戻します。

抗菌加工には2つの認証機関があり、それぞれの基準を満たした製品に以下のマークの表示が認められています。

SEKマーク・・・社団法人繊維評価技術協議会が認証する繊維製品の抗菌防臭加工

SIAAマーク・・・社団法人抗菌製品技術協議会が認証する繊維製品以外の抗菌加工

社団法人抗菌製品技術協議会とは、適正で安心できる抗菌加工製品を普及させるために、抗菌剤及び抗菌加工製品メーカー、抗菌試験機関が集まってできた団体です。

そして、以下3つの基準を満たした製品に、SIAAマークが表示されます。

抗菌性

抗菌加工されていない製品の表面と比較し、細菌の増殖割合が百分の一以下であり、耐久性試験後も抗菌効果が確認されること。

抗菌性については、抗菌加工されていない製品との表面比較により、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの菌数の変化から抗菌効果を評価する耐水性試験や耐光性試験などの持続性試験を行い、その結果が一定の基準を満たしたものであることが求められます。

安全性

SIAAが独自に決めた安全性基準を満たしていること。

以下4つの安全性試験に合格したものです。

経口毒性・・・飲み込んだときの有害性
皮膚への刺激性・・・長く触れたときの炎症など
突然変異性・・・遺伝子(DNA)への影響
皮膚感作性・・・アレルギー

適切な表示

抗菌剤の種類、加工部位を明示していること。

使用している抗菌剤の種類を義務付けています。

抗菌印刷とは

弊社でも取り扱う抗菌印刷には、前項で説明したSIAAの基準を満たす抗菌効果のある印刷用インキ(抗菌ニス)を使って印刷されます。つまり、印刷できるものならなんでも抗菌加工ができるということです。

また印刷物特有の臭いを抑制しているため、食品のパッケージなどにも多く採用されています。

抗菌印刷の採用分野は、医療機関や製薬会社、飲食店など多岐に渡ります。
コロナ禍以前は、主に食品関連での使用が多かったのですが、最近は介護業界や美容業界など幅広い分野に使用されるようになりました。

今後ますます需要の幅が広がることでしょう。

話題の「抗菌印刷」とは?抗ウイルスとの違いと効果について解説 まとめ

ウイルスだけでなく、細菌が引き起こす病気には手術や入院を伴う治療が必要なものも多くあります。治る病気もありますが、かからないことが重要です。

そしてウイルスや細菌に対して、一番の対抗策は手洗いとうがいです。しかし、手洗い・うがいは場所を選びますし、出来ない場合も多々あります。その応急処置としての対抗策が持ち運びしやすい消毒液や抗菌・抗ウイルス製品の使用です。

しかし、抗菌や抗ウイルスを謳ったものには、消費者に誤解を与えるようなものも多くあります。

特にコロナ禍の現在は広告表現にも注意が必要です。

また消費者庁からは、新型コロナウィルス感染症の予防効果を謳う商品の表示について以下のような注意喚起が行われています。

新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、 民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対 する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性 及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与 えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大 表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。

by 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について(PDF)

「薬機法」や「健康増進法的」とは?コロナ禍における広告表現の注意点

抗ウイルスや抗菌作用のある製品は数多くありますが、消費者としても、また製品開発者としても特性を理解した上で賢く使用していきたいものです。