2015年12月10日
印刷業界はどうなる?4つのビジネスモデル形成を目指すには
目次 ▼
この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。
印刷業界は衰退するのか?
あなたは、印刷会社がどのような仕事をしているかご存じですか?「印刷データの作成とそのデータの印刷」多くの方がこのように答えます。
確かに、チラシ、パンフレット、ポスター、冊子など、紙を使った印刷物は、私たちの身近に溢れており、全てどこかの印刷会社が行った仕事です。
では、今後5年、10年、20年後、これらの紙はどうなるでしょう?これも多くの方が「紙はなくなってしまう」と答えるかもしれません。
電子書籍の発展、新聞の減少、インターネットの普及などによって、印刷物のメインである紙の需要が将来的に少なくなっていくことは確実です。
この流れに私たち印刷業界の人間は戦々恐々としている……と思うかもしれませんが、実はそうではありません。
まず、印刷自体が世の中からなくなることはありませんし、紙もなくなることはありません。少なくとも、10年後に紙が半分以下になってしまうということはないはずです。
少し古いですが、以下は、以前にご紹介したブレイン・リサーチ&マーケティングのデータです。
平生24年の売上高とその構成をベースにして、10年前の平成14年データ、そして、10年後の予測データをグラフ化したものです。
参考:株式会社ブレイン・リサーチ&マーケティング:印刷産業 10年分析 (1/3)
令和4年(2022年)には、市場規模が4兆円にまで縮小すると予測されています。このような予測の正確性がどれほどのものかはわかりませんが、印刷業界にいると、単純な紙の印刷物の縮小は肌で感じます。
あなたが思うよりも紙の印刷は減少しないかもしれません。ただし、単なる印刷業だけでは今後ある程度淘汰されていきます。実際に印刷会社の淘汰は10年、15年以上前から始まっています。
そのため、大きな流れを食い止めようと無駄な努力をしている利権関係者を除いて、現場の人間は「じゃあ次はどうしようか」と昔から常に考え続けているのです。
印刷業界が目指す4つのビジネスモデル形成
印刷業界が目指すべきビジネスモデルは、以下の4つに分かれると言われています。
1.デジタル化
印刷工程や管理の仕方をIT化しオートメーションを進めることで、さらに改善していきます。オンデマンド印刷が最もわかりやすいデジタル化です。
また、ITを駆使したマーケティング戦略として、WEBサイトでの顧客獲得があります。実際WEBマーケティングが成功した印刷会社はいくつもあり、私たちもおかげさまでいくつかのサービスは軌道に乗っています。
2.高機能化
通常の紙に対する印刷だけでなく、包材、建材、ガラスなど、産業資材分野のニーズに対応した印刷を行います。
もちろん今の設備だけでは対応ができないため、新しい機械を購入しなければいけません。また、受注生産だけではなく、新しい設備を活かしたサービスを生み出すことも考えなければいけないでしょう。
3.ソリューション化
印刷業は、顧客の広告やマーケティング施策に密着している場合があります。印刷物を通して、顧客リストや商品リストをデータベース化できる環境はすでに整っています。
そのため、顧客の集約、分析できてない情報をどうソリューションに繋げるか、顧客の業務をどうアウトソーシングするかが事業展開の1つの鍵になります。
4.新しいビジネスモデル形成
上記3点を使い、関連業界を巻き込んだ印刷産業のイノベーションに取り組んでいくという流れもあるでしょう。
凸版印刷、大日本印刷の2トップはすでに新しい産業を作るために展開をしていますが、印刷業界の中小企業はこれからイノベーションを起こすための工夫が必要です。
そのためには、デジタルとITに強い企業とどのように手を組んでいくかが重要です。
印刷業界に必要な考え方とは
印刷業界が今後進む方向性があるとはいえ、一足飛びで方向性の先にある目標にたどり着くわけではありません。それぞれの印刷会社が今ある技術とリソースを活用し、少しずつ変容していく必要があります。
そのために必要な考え方が、以前にもご紹介したワンストップソリューションとワンソースマルチユースを身につけるということです。
印刷業界のワンストップソリューション
印刷のワンストップソリューションとは、これまでの印刷業を柱にした印刷品目、技術、工程に加え、前後工程にサービスの範囲を伸ばしていくやり方です。
ワンストップソリューションとは、ワンストップ+ソリューションのことで、1か所で何でも揃うこと、全ての問題が解決できること、という意味があります。
ワンストップとは1か所、ソリューションは問題解決という意味です。
印刷業界においては、まず後加工の内製化が思いつきます。
製本、ポストプレスなどの印刷後工程を内製化したワンストップソリューションを実現することで、顧客コントロールを行いやすい環境を作ることが目的です。
また、顧客ビジネスのフルフィルメント化によって、受発注管理、在庫管理、梱包、発送、決済処理など、商売のコアプロセスまでを一元管理できるビジネスモデルを構築することも考えられるでしょう。
印刷業務というのは、商売全体の一部でしかありません。その割に印刷会社が持っている顧客データ、販促データは非常に価値が高く、考え方によっては顧客業務全てをワンストップソリューション配下に置くことも可能です。
ただし顧客に対するすべての業務をフルフィルメントで行うことは、競合となる大企業とバッティングします。
そのため、中小企業は弱者の戦略を取ることが一般的です。フルフィルメント化にこだわるのではなく、全工程の一部に強みを持って、技術的、ノウハウ的な特徴を確立していかなければいけません。
印刷業界のワンソースマルチユース
ワンソースマルチユースは、これまで行ってきた印刷業務から派生する周辺業務に対して、リソースを活用していきます。
ワンソースマルチユースとは、ワンソース+マルチユースのことで、一つのデータをさまざまな方法で利用する、という意味があります。
ワンソース(one source)とは、一つのデータ(情報)のことで、一つのコンテンツや元データを指します。マルチユース(multi-use)」とは、さまざまな方法や方式でデータ(情報)を利用することです。
ワンソースマルチユースで必要なことは、プリプレスより前段階のプリメディア工程におけるノウハウの蓄積です。
まず印刷会社が主業務で行っている印刷物デザイン、画像処理などのプリプレス業務で制作したデータをマルチメディア戦略やクロスメディア戦略に活かしていきます。
マルチメディア戦略とは、1つの商品、サービスを複数の媒体を使って、宣伝広告するための手法です。
クロスメディア戦略とは、1つの商品、サービスを複数の媒体の長所と短所を理解し、特徴を活かした一連の広告戦略を行うことなので、かなり意図を持って、広告を行っていく必要があります。
使用する媒体は、それぞれが役割を持っています。つまり、集客し、興味付けをし、購買や資料請求に至るまでの役割を1つの媒体では行いません。
クロスメディア戦略は、一連の流れに沿って、各媒体に役割を持たせ、スタートとゴールを明確にすることで、認知効果を高めたり、より精度の高い販促を行うことを可能にします。
印刷原稿の基となるコンテンツデータは資産として顧客に提供することができますが、業務の方向性は実作業(データ加工及び提供)とコンサルティングに分かれます。
もちろん、よりノウハウが必要になるのはコンサルティングの方で、手元にあるコンテンツデータから顧客の商材とターゲットに合わせたマーケティング戦略を提案してビジネス展開をしていかなければいけません。
印刷業界のビジネスモデル形成まとめ
以前の印刷業界は極端に言うと、ある程度の資本があり大型の印刷機が購入できれば参入できる業界でした。
そのため、印刷機の性能による印刷技術や印刷品質が均一化してしまうと、印刷そのものでは差別化しにくい状況に陥ります。
印刷会社は、電子書籍やITがあろうがなかろうが、次の印刷業界が目指すべき道を模索し進化しなければならず、現在は各印刷会社がそれに取り組んでいる真っ最中です。
目指すべき道を簡単に言うと、単なる印刷物というものづくりのみの体制から脱出し顧客と印刷の間に発生する印刷を媒体とした情報を絡めたサービス業を目指す、というものです。
実際、印刷会社は印刷媒体を通して、広告宣伝、販売促進、商品企画、顧客管理、品質管理など、既にさまざまな顧客情報に深く関わる基板を構築してきています。
そしてこれらの情報を活かすためには、ワンソースマルチユース、ワンストップソリューションという2つの戦略を使いこなす体制づくりが不可欠であり、2つの戦略を使いこなすことで、デジタル化、高機能化、ソリューション化、新しいビジネスモデル形成という印刷会社の新しい方向性が見えてくるのです。