2023年2月17日
出版取次とは?本が流通する仕組みと2023年最新業界動向
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書店には多岐にわたるジャンルの書籍や雑誌がずらりと並んでいますが、これらの本は出版社からそのまま書店に届けられているわけではありません。
出版物の多くは、
著者 → 出版社 → (印刷会社) → 取次店 → 書店 → 読者
という流れに沿って流通されています。
取次店とは?
取次店(とりつぎてん)とは、出版社と書店をつなぐ流通業者のことです。
出版社と書店の間に入り、書店の規模やニーズなどを考慮しながら、どの書店にどの本を何冊置くかという配本のコントロールや在庫管理を行う、問屋のような役割を果たしています。
そのほかにも、人気商品の補充や売れ残った商品の返品処理、代金の請求や支払いの代行なども行っており、近年では書店や出版社に対して、新刊に関する情報やアドバイスを提供したり、イベントの企画・案内を行うなど、業務範囲は多岐に渡っています。
日本では日本出版販売(日販)とトーハン(旧・東京出版販売)が二大取次としてシェアの80%近くを占めています。
次に、 出版社・取次店・書店の関係性を知る上で欠かせない二つの制度についてご紹介していきます。
再販制度(再販売価格維持制度)
再販制度(再販売価格維持制度)とは、出版社が本の販売価格を決め、すべての書店が定価で販売するという制度です。
家電量販店やドラッグストアのように店舗によって価格が異なったり、割引を行わないのはこの再版制度があるからです。
通常、このように販売価格を統一するのは市場の価格競争が行われなくなるため禁止とされていますが、 本は知識の向上・維持といった文化的な役割を持っているという特性から、全国どこでも定価で本を購入できるように決められています。
もし再販制度がなければ物流コストのかかる遠隔地では本の価格が高騰したり、本が十分に供給されないことにもなりかねないため、販売価格によって知識の習得に地域格差が出ることは望ましくなく、公正取引委員会によって価格の統一が義務付けられています。
委託販売制度
委託販売制度とは、出版社自体は本を販売をせず、取次を通して書店に販売を委託する制度のことで、一定の期間内であれば、書店は売れ残った本を取次を介して出版社に返品することができるという仕組みです。
委託販売制度によって、書店は在庫を抱える心配なく、多種多様な本を仕入れることができ、読者も書店で幅広いジャンルの本を手にとることができます。
一方、出版社にとっては自社のさまざまな本を書店に置いてもらえるというメリットがありつつも、書店から返品された分は赤字になってしまうというリスクもあります。
しかし、委託販売制度がなければ書店には売れる本しか置かれず、市場に出回る本の種類や分野が狭まってしまいます。書店が売れ行きに左右されずさまざまなジャンルの本を仕入れられ、読者の手に届くよう、このような制度が設けられているのです。
本が流通する仕組み
ここまで、本が書店に並ぶまでの流れや制度、取次店についてご紹介しましたが、本を購入できるのは書店だけではありません。
そこで、インターネットショップや電子書籍など、購入方法別に本が流通する仕組みを簡単にご説明します。
書店
書店の場合は先ほどご紹介した通り、出版社が制作した本を取次店が各書店へ配本し、書店に並ぶという流れです。
商品の発送や管理などは基本的に取次店が行います。
インターネット
インターネットの場合、複数の流通ルートがあります。
まずは、出版社が制作した本を取次店が通販サイトなどへ配本するケースです。取次店の配本先が実店舗かインターネット上の店舗かという点以外は紙の書籍と同様、以下の流通のルートで読者へ届けられています。
出版社が取次を介さずに自社のWebサイトで本を販売するケースもあります。この場合、 読者は出版社のサイトから購入申し込みをし、出版社から直接商品が発送されるという流れです。
これまでの流通ルートと大きく異なる動きをしているのが、大手通販サイトのAmazonです。Amazonは、2019年より取次店を介さずに出版社と直接取引をする「買い切り制度」を導入しています。
「買い切り制度」はAmazonが出版社から本を直接購入し、売れ残っても返品しない、というものです。
出版社にとっては返品のリスクがなくなり、Amazon側も売れ残っている在庫は一定期間を過ぎたら値下げできるため在庫を抱える心配もありません。
取次店を介さないため中間コストの削減や納品日数の短縮といったメリットがありますが、再販制度や委託販売制度の形骸化が懸念されています。
電子書籍
電子書籍においても取次店は存在します。基本的には紙の書籍の取次店と同様の役割ですが、紙の書籍のように現物の発送や在庫管理、返品対応などはなく、代わりに販売サイトの運営やマーケティングを行っている会社もあります。
また、電子書籍の場合にも、出版社と電子書籍ストアの直接取引や、出版社が自社のサイトで電子書籍を販売するケースもあります。
また、電子書籍は形がなく、「物流コストなどの影響で本の販売価格に地域差が出ないように」という目的から外れるため、再販制度の適用外となります。
書店ではセールが行われないのに電子書籍の販売サイトでは頻繁にセールが行われる、というのはこのためです。
【2023年】印刷・出版業界の市場動向
ここからは印刷・出版業界の市場動向についてご紹介していきます。
コロナ禍で出版物の需要が盛り返す
出版不況と言われて久しいですが、紙と電子を合わせた出版市場は2019年から2021年まで3年連続でプラスとなっています。
特に、2020年・2021年はコロナ禍よって巣ごもり需要が高まり、電子書籍だけでなく文芸書や児童書、参考書などの売れ行きも好調で、紙の書籍の販売額が15年ぶりに増加するなど、コロナ特需ともいえる状況となりました。
しかし、2022年になり感染状況が落ち着くと同時にコロナ特需も収束し、物価高の影響も相まって再び出版市場は減少。電子書籍は成長を続けていますが、その伸び幅にもブレーキがかかっています。
雑誌の売り上げは依然減少
コロナ禍で紙の書籍が好調だった一方、雑誌の売り上げはコロナ禍でも年々減少が続き、休刊する雑誌も相次いでいます。
「dマガジン」や「楽天マガジン」といった月額制読み放題サービスが広く普及したことや、SNSやWebメディアでの情報収集が主流になったことなどが要因として考えられますが、2022年までで17年連続の減少という結果となりました。
まとめ
今回は本が流通する仕組みや現在の業界動向についてご紹介しました。
コロナ禍や物価高、インターネット通販の拡大などによって印刷・出版業界の流通ルートや市場状況にも大きな変化が出てきました。
今後はアフターコロナの状況の中でどのような取り組みを進めていくかが鍵となるでしょう。