2023年3月20日

公用文の書き方とは?漢字・ひらがなの表記ルール

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公用文とは?

公用文とは、国や自治体、公共団体が出す文書のことです。
公用文は告示や公開資料、広報をはじめ、以下のように分類されています。

▼公用文の分類例

大別具体例想定される読み手手段・媒体の例
告示・通知等告示・訓令、通達・通知、公告・公示専門的な知識がある人官報、府省庁が発する文書
記録・公開資料等議事録・会見録、統計資料、報道発表資料、白書ある程度の専門的な知識がある人専門的な刊行物、府省庁による冊子、府省庁ウェブサイト
解説・広報等法令・政策等の解説、広報、案内、Q&A、質問等への解答専門的な知識を特に持たない人広報誌、パンフレット、府省庁ウェブサイト、同SNSアカウント

公用文作成の考え方(建議)より一部抜粋・作成

公用文は公的機関が発する正式な文書のため、一般的な書籍や出版物とは推奨される表記が異なり、公用文ならではのルールや手引きが設けられています。

しかし、近年は読み手や媒体の多様化によって、公用文であっても目的や対象に合わせたわかりやすく親しみやすい文章が求められています。

例えば、法令に準ずるような「告示・通知等」については、原則公用文の表記ルールにしたがって表記するとされていますが、「記録・公開資料等」については情報を正確に伝えつつわかりやすいようにかみ砕いた表現が求められていますし、「解説・広報等」においては全国民が読者になることを想定して読みやすさを重視した書き方が認められています。

公用文においても、文書の目的や種類、読み手に合わせて書き方を工夫することが大切だと言えるでしょう。

読み手に伝わる公用文作成の条件

文化庁による『新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 』で示されている、公用文作成のポイントについてご紹介していきます。

正確に書く

公用文は公的機関が発している文書のため、常に正確な文章だということを前提に読まれるものです。必要な情報が誤りや過不足なく読み手に届くよう、伝える内容を取捨選択しつつ正確に書くことが求められます。

公用文の中でも特に「告示・通知等」は、読み手に対して一定の影響力を持つため、法令などと同様に公用文の表記ルールに従って表記ゆれを防ぐとともに、誤読や複数の意味に解釈できるような表現は避けなければいけません。

また、「解説・広報等」では読みやすく親しみやすい表現で書くと先ほどお伝えしましたが、情報をかみ砕いてわかりやすい表現に言い換える際にも、基となる情報の内容や意味を損なわないように正確さを保つことが重要です。

読み手が基となる情報や資料をすぐに参照できるように、リンクなどを貼って誘導するのもよいでしょう。

わかりやすく書く

公用文はさまざまな人が目にするもののため、誰が読んでもわかりやすいことが求められます。

特に「解説・広報等」は専門知識を持たない人が読むことが想定されるため、専門的な用語や難しい言葉は言い換えや注釈、具体例を出すなどして表現を工夫する必要があります。図表やデザインも効果的に活用しましょう。

また、先ほど正確に書くことが大切とお伝えしましたが、正確性を求めるあまり、詳細に書きすぎたり、不要な情報まで盛り込んでしまうと読み手側は必要な情報を見つけにくくなってしまいます。

伝えるべき情報を絞り、「正確さ」と「わかりやすさ」のバランスがとれていることが理想的です。

気持ちに配慮して書く

公用文においても今後ますます読み手や媒体が多様化していくことが予想されます。

ここまでお伝えしてきたように、公用文においても目的や種類、読み手に合わせて書き方を工夫することが重要ですが、読み手が限定されないように広く使われている言葉を使用し、誰に対しても敬意が伝わる表現を用いるようにしましょう。

また、わかりやすい書き方であればよいというわけではありません。年齢差や性差、国や地域などの違いにおいて、書き手の主観になっていないかどうか、読み手が違和感や不快な思いを抱かないかどうか、注意する必要があります。

正式には問題のない言葉や言い回しであっても、本来の意味から外れて使われることが多かったり、誤った意味で伝わる可能性が高い場合は、別の言葉に言い換えて書くのがよいかもしれません。

公用文における漢字の使い方

公用文においては、基本的に「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)に基づき、常用漢字表に掲載されている漢字・音訓(読み方)・字体を使って書き表すことが定められています。

▼代名詞
(例) おれ → 俺  かれ → 彼  だれ → 誰  なに → 何
    ぼく → 僕  わたし → 私  われわれ → 我々

▼副詞・連体詞
(例) あまり → 余り  いたって → 至って  おおいに → 大いに  おそらく → 恐らく
    がいして → 概して  かならず → 必ず  かろうじて → 辛うじて
    きわめて → 極めて  ことに → 殊に  じつに → 実に  すでに → 既に
    すべて → 全て  たいして → 大して  たえず → 絶えず  たがいに → 互いに
    ただちに → 直ちに  たとえば → 例えば  ついで → 次いで  つとめて → 努めて

ただ、地名や人名などの固有名詞は常用漢字表にない漢字の使用が認められており、人名については本人の意思を尊重すべきとされています。その際にはルビを振るなどして対応しましょう。

▼公用文における数字・記号の書き方については以下の記事でご紹介しています。

常用漢字表にない漢字・読み方の表記方法

常用漢字表に掲載されていない漢字や、常用漢字表に掲載されていても採用されていない読み方は原則使用を避け、他の語に言い換えたり、ルビを振るなどして対応します。

1.ひらがなで書く

常用漢字表にない漢字・読み方で訓読みのものはひらがなで書きます。

(例) 敢えて → あえて  予め → あらかじめ  或いは → あるいは  いまだ → 未だ
    謳う → うたう  嬉しい → うれしい  概ね → おおむね  自ずから → おのずから
    叶う → かなう  叩く → たたく  止める/留める → とどめる  経つ → たつ
    為す → なす  則る → のっとる  捗る → はかどる  以て → もって
    依る/拠る → よる  宜しく → よろしく  坩堝 → るつぼ

音読みの熟語も、漢字を使わずに意味の通るものはひらがなで書きます。

(例) 斡旋 → あっせん  億劫 → おっくう  痙攣 → けいれん  御馳走 → ごちそう
    颯爽 → さっそう  杜撰 → ずさん  石鹸 → せっけん  覿面 → てきめん
    咄嗟 → とっさ  煉瓦 → れんが

常用漢字表にない動植物の名称は、一般語として書くときにはひらがな、学術的な名称として書くときにはカタカナで表記します。

(例) 鼠 → ねずみ/ネズミ  駱駝 → らくだ/ラクダ  薄 → すすき/ススキ

2.読み方が同じで、意味の通じる常用漢字を使う

読み方が同じで、意味の通じる常用漢字に置き換えられる場合にはそちらを使って言い換えます。

(例) 活かす → 生かす  威す/嚇す → 脅す  伐る/剪る → 切る  口惜しい → 悔しい
    歎く → 嘆く  拓く → 開く  解る/判る → 分かる  仇 → 敵  手許 → 手元
    想い → 思い  哀しい → 悲しい  真に → 誠に

3.別の言葉に言い換える

同じ意味を持つ別の熟語がある場合は、その漢字を用いて言い換えます。

(例) 隘路 → 支障/困難/障害  軋轢 → 摩擦  竣工 → 落成/完工
    捺印 → 押印  誹謗 → 中傷/悪口  逼迫 → 切迫

同じ意味で、よりわかりやすい言い方がある場合にはそちらを使用しましょう。

(例) 安堵する → 安心する/ほっとする  陥穽 → 落とし穴  狭隘な → 狭い
    豪奢な → 豪華な/ぜいたくな  誤謬 → 誤り  塵埃 → ほこり
    脆弱な → 弱い/もろい  庇護する → かばう/守る  畢竟 → つまるところ
    酩酊する → 酔う  凌駕する → しのぐ/上回る  漏洩する → 漏らす

4.常用漢字表にない漢字のみをひらがなで書く

言い換えが難しい場合は、常用漢字表にない漢字のみをひらがなで書き、漢字とひらがなを併せて表記することも認められています。

(例) 改竄 → 改ざん  牽引 → けん引  口腔 → 口くう
    招聘 → 招へい  酉の市 → とりの市

化学用語などはカタカナを混ぜて書くこともあります。

(例) 燐酸 → リン酸  沃素 → ヨウ素  弗素 → フッ素

5.ふりがな・読み仮名を付ける

どうしても常用漢字表にない漢字・読み方を使用する場合は、必ずふりがなを付けるようにします。

その際、原則として常用漢字表にない漢字・読み方のみにふりがなを付けるとされていますが、読みやすさの観点から熟語全体にふりがなを付けることも認められています。

該当の漢字が出てくるたびにふりがなを付けるのではなく、初出の際に付けるなどのルールを決めておきましょう。

(例) 目標へ まい 進する  未来を ひら

また、入力ソフトの設定や形式などによってふりがなを付けるのが難しい場合は、括弧内に読み仮名を記載することもできます。その場合、常用外漢字だけでなく熟語全体の読み仮名を示したほうがわかりやすいでしょう。

(例) 目標へ邁進(まいしん)する  未来を拓(ひら)く

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常用漢字であってもひらがなで書く語句

常用漢字表に掲載されているものは原則漢字で表記するとされていますが、一部例外的にひらがなで表記するものもあります。

1.助詞(副助詞)・助動詞

程度を表す「くらい」「ほど」といった助詞(副助詞)や「~のようだ」「~ない」などの助動詞は常用漢字であってもひらがなで書きます。

副助詞とは、「くらい」「まで」「ほど」などさまざまな語句の後ろに付いて意味を添える役割を持つ助詞のことです。

引用:漢字?ひらがな?使い分けに迷ったときの7つのポイント

また、「等」という助詞は常用漢字表の読み方に従って、「など」と読む場合にはひらがなで書き、「とう」と読む場合には漢字で表記します。

(例) 位 → くらい  程 → ほど
    等 → など(「とう」と読む際は漢字で「等」と表記)

2.補助動詞・補助形容詞

「学校へ行く」「映画を見る」など、実際の動作を表す動詞は常用漢字であれば原則漢字で表記しますが、「持っていく」「やってみる」のように補助的な意味として用いる動詞や形容詞はひらがなで書きます。

(例) ~て行く → ~ていく  ~て頂く → ~ていただく  ~て来る → ~てくる
    ~て下さる → ~てくださる  ~て見る → ~てみる
    ~て欲しい → ~てほしい  ~て良い → ~てよい

3.形式名詞

「うれしいこと」「お忙しいところ」など、実質的な意味を持たずに形式的に用いられる名詞の場合はひらがなで書きます。

の重大さに気が付いた」「家を建てる」など名詞本来の意味で使用する場合には漢字で書きます。

(例) 上 → うえ  内 → うち  事 → こと  為 → ため
    通り → とおり  時 → とき  所/処 → ところ
    物/者 → もの  筈 → はず  方 → ほう  訳 → わけ

4.指示代名詞

「これ」「それ」などの指示代名詞はひらがなで表記します。

(例) 此れ → これ  其れ → それ  此処 → ここ
    其処 → そこ  何処 → どこ

5.接尾語

語句の最後につく接尾語は基本的にはひらがなで書きます。

(例) 二人共 → 二人とも  私達 → 私たち  僕等 → 僕ら
    惜し気もなく → 惜しげもなく  弱味 → 弱み

6.漢字本来の意味が薄くなっているもの

「おはよう」「こんにちは」など、漢字本来の意味が薄れているものはひらがな表記で書きます。

(例) 有難う → ありがとう(「有り難い」は漢字で書く) 
    お早う → おはよう  今日は → こんにちは  逆様 → 逆さま

7.当て字

「流石」「素晴らしい」などの当て字はひらがなで表記します。
「明後日(あさって)」「十八番(おはこ)」など、熟語としての読み方が常用漢字表に掲載されていない場合は「みょうごにち」「じゅうはちばん」と音読みでのみ使用するようにします。

(例) 何時 → いつ  如何 → いかん  思惑 → 思わく  流石 → さすが
    素晴らしい → すばらしい  煙草 → たばこ  一寸 → ちょっと
    普段 → ふだん  滅多 → めった

8.法令がひらがなで書かれている場合

常用漢字であっても、法令の中でひらがなで書かれている場合は、法令にならってひらがなで書きます。

(例) 虞 → おそれ  且つ → かつ  但し → ただし
    但書 → ただし書  外/他 → ほか  因る → よる

語句によって異なるもの

1.接続詞

接続詞は基本的にはひらがなで書きますが、一部漢字で書くものもあります。

▼ひらがなで書く接続詞
(例) 追って → おって  且つ → かつ   然し → しかし  然し乍ら → しかしながら
    又 → また  従って → したがって  それ故 → それゆえ  但し → ただし
    更に → さらに(副詞の「更なる」は漢字)

▼漢字で書く接続詞
(例) および → 及び  ならびに → 並びに  または → 又は  もしくは → 若しくは

2.接頭語

接頭語である「御」は、「お(御)」と読む場合にはひらがなで表記し、 「おん(御)」「ご(御)」と読む場合には漢字で表記します。

(例) 御菓子 → お菓子  御願い → お願い
    ご挨拶 → 御挨拶  ご案内 → 御案内   ご意見 → 御意見

また、常用漢字表にない漢字を含む場合には、「御」の読み方にかかわらず「御」も含めてすべてひらがなで書きます。

(例) 御馳走 → ごちそう  御尤も → ごもっとも

3.連体詞

「この~」「その~」など、名詞を修飾する役割を持つ連体詞はひらがなで書くのが基本ですが、「我が~」「去る~」などは漢字で書きます。

▼ひらがなで書く連体詞
(例) 在る~ → ある~  如何なる → いかなる  所謂 → いわゆる
    此の~ → この~  其の~ → その~

▼漢字で書く連体詞
(例) きたる~ → 来る~  さる~ → 去る~  わが~ → 我が~

送り仮名の付け方

送り仮名は原則として「送り仮名の付け方(昭和 48 年内閣告示第2号)」に従いますが、一部読み間違えの恐れがないものについては、送り仮名を省略して表記します。

送り仮名を省略する語として186語の名詞が定められており、以下一部をご紹介します。

(例) 入替え 受入れ 受渡し 打合せ 売上げ 売場 置場 買取り 切替え 組立て
    締切り 仕分 立入り 手続 問合せ 取扱い 取替え 取消し 取締り 引換え
    引継ぎ 引取り 見積り 申込み 持込み 呼出し 割増し

ただ、「売り上げる」「問い合わせる」のように動詞として用いる場合には省略せず「送り仮名の付け方(昭和 48 年内閣告示第2号)」に従って表記します。

また、解説・広報等において読み手にとって送り仮名を省略しない方が読みやすいと判断される場合には、「打ち合わせ」「仕分け」のように送り仮名を省略せずに記載することも可能です。

まとめ

今回は「公用文作成の考え方(建議)」と「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」を基に、公用文の書き方やポイント、表記ルールについてご紹介しました。

「告知・通知等」や「記録・公開資料等」についてはその専門性や読者層、影響力などから、今回ご紹介した公用文のルールに従って書くことが推奨されていますが、幅広い読者へ向けた「解説・広報等」においては、表記ルール守ることよりも読みやすさを重視することが求められています。

公用文のルールを念頭に置いたうえで、目的や掲載媒体、読者に合わせて書き方を工夫することが大切です。今回ご紹介した公用文のルールをもとに、独自の表記ルールを定めることも効果的ですので、ぜひ参考にしてみてください。

▼表記ゆれを防ぐポイントについては以下の記事で詳しくご紹介しています。

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